「……お兄ちゃん……」


言い知れぬ不安が二人の胸を占めてゆく。


「……なんなんだ……」


妙な緊張感……

一瞬、遠くの景色が二重に見えた。

……と、


————グラアッ!!


突如視界が暗転する。


「キャア!」
「うわっ!」


体ごと大きく揺さぶられ、二人は地面に倒れこんだ。

一体何が……

這いつくばる格好で、透と薫は顔を上げる。すると、


「「 ! 」」


二人は我が目を疑った。


道路が、建物が、人が、車が……


視界に映る全てのものがグニャグニャに湾曲しながら色や形を変えている。

道路は波のようにうねりながら、建物はその大きさを伸び縮みさせながら、

変幻自在に姿を消したり、同化したりをしているのだ。

やがて、


"ブゥオッ! シュィィィ————ッ!"


端から衝撃波のようなものが駆け抜けたかと思うと、アイロンで皺を伸ばしたように歪みがピンと修正される……


「「————っ!!」」


そこはもう、さっきのクリーニング店の前ではなかった。

クリーム色のマンションの前、

ここは天使美空が暮らす家だ。


……何故、ここに——。


混乱しながら二人はキョロキョロ辺りを見回す。

おかしな事に誰も人の姿がない。

人だけじゃない……車も、自転車も、

風の音さえ感じない、無音の世界が広がっているのだ。