SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

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“ チッ、チッ、チッ、チッ……”


大きな時計の秒針が広い空間によく響く。

共有リビングルーム。

全部で四つある、ゆったり組まれたソファセット。

その一つにあたしと透と薫が、少し離れたソファセットにサヤが一人で座っていた。


——シン……


重苦しい雰囲気。

両隣に座る透と薫は、殺気立った様子でサヤの事を睨んでいるし……

サヤはサヤで、横顔しか見えないけど、焦ったようなイライラしたような、同じくらい感情が高ぶっているのが伝わってくる。

誰も喋らない空間は、ますます空気に重みが増して体に迫ってくるようだった。


それにしても……


あたしはさっきの事を思い出す。

あの後、言い争いはしばらく続いた。

やったとか、やってないとか、イジメだとか、イジメてないとか……

その言葉の意味が分からないあたしだけが、ひとり首を傾けていたのだ。


「……ねえ……」


あたしは左右に首を動かす。


「やっぱりあたし分からない。透も薫も、どうしてそんなに怒ってるの?」


もう何度目か分からない質問を口にした。


「……ハァ。 おまえなぁ……」
「それはあの人が美空さんをイジメてたから!」


「だから、イジメって、なに?」


「イジメは、人の嫌がる事をするのがイジメ!」


「あたし、別に嫌がってない」


「……っ、おまえ、アイツに暴力振るわれたんだろ!」


「それはあたしが悪いんだ。サヤは全然悪くない。殴るのも教育のうちなんだ」


「……っ、だから! それがイジメなんだってば!」


「殴るのが教育な訳ねえだろ! 何度言えば分かるんだ!」


「……だって……」


繰り返されるこのやり取り。

あたしが質問したくせに、どこか聞き流してる自分がいて、言葉が耳に入ってこない。

頭にはやっぱり黒木とユリがいた。


だって黒木は……


だってユリは……


「サヤの言うの正しいんだ」


「それが正しくないんだってば!」
「おまえ何でかばおうとするんだ!」


「だってサヤは間違いないんだ」


「「……だからっ……!!」」


イラだった声が二つ重なる。


「……?」


「「……ハア〜、」」


見合った後、二人は同時にため息をついた。