「なんだ帰って来たのかよ」
「悪い⁉︎ てか、ここオレんちだし! そっちこそ何で毎日いる訳⁉︎」
湧人はドカッと腰を下ろした。
「湧人。今日遅かったね」
「……うん、ちょっと……」
少しだけ目を泳がせ、湧人はさっと手を伸ばす。
当たり前のようにあたしの宿題をやり始めた。
「つーか、何でおまえ高校の問題分かるんだよ!」
「しょうがないだろ、分かるんだから!」
「まれに見る天才少年かよ!」
「そんな事より、もっとみくの字を真似て書きなよ! 手伝ったのバレたらみくが怒られるだろ! もっと右上がりに!」
「……うっせえなぁ」
手を動かしながら、二人はいつものように言い争う。
「……おい、誰の宿題だ。ぼーっとしてねえでおまえもやれよ」
「あ〜。 うん」
あたしも再びシャーペンを手にした。
ところが、
「…………」
……あ、れ……
ESPがまったく使えなくなっている。
完全に不安定になっていた。
「……だめだ……」
ため息をつき、水色バックをゴソゴソあさる。
メガネを見つけてかけてみた。
「……なんだその黒ぶち……」
不思議そうに透が言う。
「うん。だって見えない。メガネ見える。答えも見えないかなぁ?」
「はあ⁉︎ なんだって⁉︎」
「不安定。もう見えない分からない」
「ああ⁉︎」
「……みくっ、いいよっ! オレ代わりにやっとくから!」
「……おいっ! おまえアホだろっ!」
「……なっ! みくはアホじゃないっ!」
「発想がすでにアホだろ! メガネかけて答えが見えるか! このどアホ!」
「違うって言ってるだろっ!」
「…………」
二人のやり取りを、あたしは黙って聞いていた。