SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「こっちから帰ろう」


路地裏の方を指差した。


「……は? 何故わざわざ遠回りして……」

「いいから、行こう」


あたしは奏太の手をつかむ。
そのままぐいぐい引っぱっていった。


「……おまえ、どうした……」


「うん、もっとこっち」


……逃げ場がない以上、

こうなったら、なるべく細い小道へと奏太を連れて行くしかない。


「ねえ質問。奏太はバキ何人ぐらい倒せる?」


車一台やっと通れる細い道。

あたしは奏太に聞いてみる。


「……なんだ急に」


「この先は行き止まりだから、こっちからしか来ないんだけど……」


「だから何を——、」


奏太の顔色がサッと変わる。


「……ッ!」


——ザザザッ!


突如現れる黒い影。


「「「これはこれは」」」
「「「扇龍の総長さまあ〜 」」」


案の定、覇鬼が大勢やってきた。

黒いマスクに鉄パイプ。

ギラギラした目つきで、覇鬼はじりじりこっちに近付いてくる。


「……てめえら……」


奏太はあたしを背に隠す。


「縄張りには立ち入らねえ、暗黙のルールまで無視するとは……感心しねえな」


決して動じない後ろ姿。

奏太の発した言葉には殺伐とした雰囲気が漂った。


「……こっちは急いでんだよッ!」
「ルールだなんだ言ってる程ヒマじゃねえッ!」

——ギィンッ!

道路に打ち付けられる鉄パイプ。


「さんざんナメた真似しやがって!」
「女! きっちりカタキ取らせてもらうぞッ!」


奏太の肩越しから、鋭い視線があたしに刺さった。


「……何を言っている」


「ハンッ! 扇龍もずいぶんなタマ抱えたもんだな」

「暗黙のルールだあ⁉︎ そっちが先に破ってんじゃねーかッ!」


「……何の事だ」


「とぼけんじゃねーぞゴラ!」
「てめえらの仕掛けた罠だろうがッ!」

「よくもアジトを爆破してくれたな!」
「おおかたテメエが女にやらせたんだろーが! ああ⁉︎」


「……は?」