「……で、黒パーカーがどうしたって?」
少し冷静になった頃、奏太が再び聞いてくる。
「あ〜、」
あたしは奏太の方に体を向けた。
「奏太はどう思ってる? その、黒パーカーの男のこと……」
「……どうって……」
「怒ってないの? 黒パーカー」
「……何故怒る」
「だって黒パーカーのせい。扇龍が大変なの。奏太も、陽菜も、岩男のイライラも、みんなみんな……」
「…………」
「黒パーカーは知らなかっ……知らないよ。みんなの大変、知らなくて。ずっと、のうのうと暮らしてた」
「…………」
「みんな困ってるのに、何してた? たこ焼き食べて、草むしりして、山のぼって、花火して、スズメ追いかけて……」
「……フッ、なんだそれは? 霊感か? おまえホント変わった奴だな」
奏太は軽く笑ってみせる。
「…………」
霊感というか、何というか……
「……ま、オレは全然怒っちゃいねえよ」
視線を外し、奏太はサラッとあたしに答えた。
……?
「……どうして?」
「哲平と陽菜は黒パーカーに助けられた。オレはむしろ、そいつに感謝しているぐらいだ」
「…………」
「それに、たとえきっかけが黒パーカーだったとして、遅かれ早かれ、いずれ覇鬼と一騎討ちになるのは目に見えていた。
誰のせいでもねえ。今はただ、オレはオレのやるべき事をやる。扇龍を守る、それだけだ」
覚悟に似た、強い気持ちが伝わってくる。
奏太は黙って前を見据えた……
「……奏太……」
あたしはハッとさせられる。
……そうだ、あたし……
扇龍に留まっている、そもそもの理由を思い出す。
……そうだった。
あたしも扇龍を守る為にここにいる。
それなのに、一体なにを落ち込んでいたんだろう。
あたしが落ち込んだって誰も、何も得をしないのに……