SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし




「……っ、美空ちゃんっ! どこ行ってたの! 今みんなに知らせようと……!」


奏太の家へ戻ると、陽菜が慌てた様子でバタバタと駆け寄ってきた。


「ちょっと、散歩」


「……えっ⁉︎ ……散歩⁉︎」


陽菜は目を丸くする。


「……そんなっ、一人で大丈夫だったの⁉︎ 危ない事なかった⁉︎」


「べつに」


「……はあ~、」


陽菜は大きく息を吐く。


「……美空ちゃん……」


長い髪の毛がサラリと流れる。力が抜けたように、陽菜はぐんにゃりうなだれた。



「……だめだよ。一人で出歩いたりなんてしたら……危ないよ。 無事だったからいいけど、何があるか分からないんだから……」


「……え?」


……なんで?

陽菜の瞳がウルウルしている。

もともとの儚げな表情に、悲しい色味が足されていた。


「……わかった」


「……本当にごめんなさい。私のせいで美空ちゃんがこんな目に……」


陽菜が申し訳なさそうな顔をする。


……またか。


昨日からそればっかりだ。陽菜はあたしに何度も謝る。


「ヒナのせいじゃない。バッグ忘れたの、あたしのせい」


すると、


「……陽菜?」


頭上から、かすれた声が降ってきた。


「……哲平……」


見ると、階段を黒い短髪の男が下りてくる。

硬派な感じのシュッとした顔の男だ。

陽菜の前まで来ると、哲平は軽く陽菜の頭に手を置いた。


「……どうかしたか?」


二人の顔が近付く。


「……ううん、なんでもない。少し、美空ちゃんと話してただけ」


「こんな所で?」


不審そうに哲平は陽菜とあたしを交互に見る。


「……うん。ここ涼しいし」


「そうか?」


「……そ、そんな事より、哲平まだ7時だよ! 昨日も遅かったし、まだ眠いでしょ? もう少し寝てなよ!」


押し切るように陽菜は哲平を階段へと促す。