SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし



「だって、思い出したから」


「……思い出したって、何をだ?」


「ご先祖さま……あ~、ちょんまげのおじさんが、“クマの手” が食べたいって。だから、ちょうどいいと思って」


「……はあ? なんだそりゃ⁉︎」


「おいおい、一体どんなおじさんだよ? 熊の手を食うとか、昔の偉い殿様か??」


「……? そうなのかなぁ?」


「……はあ? ……ったく。だとしても、もう生だけはやめてくれ。さっきみてえに暴れられたら困んだろ?」


「……あ~、うん、」


あたしはさっきの事を思い出す。

ここに来て数時間、実はいろいろ面倒な事があった。

原因はあのクマ。

死んだと思ったのに生きていて、それが突然目を覚まし、スーツのお兄さんに襲いかかった。

それから——、


驚いたお兄さん銃で発砲→→クマ逃げる→→お兄さんたち追う→→クマ逆襲→→お兄さん銃乱射→→柳が止める→→隙をみてあたしクマぶん殴る→→警察がやって来てゴタゴタゴタ……


しばらくして——、


警察帰る→→入れ違いに車が突っ込む→→あたしひかれる→→無事→→若という男に遭遇→→あたしとやりとり……


まあ、大まかな流れはこんなカンジ。


——ガラ……

「ちょっといいか」


引き戸が開き、ストライプのスーツを着た、一人の男が姿を見せる。


「「……若っ!!」」


ピンと柳と小暮の背筋が伸びた。


……そう。 この男が、“ 若 ”

さっき少しだけ、この男と会話した。

肩まである少しウエーブのかかった金色の髪。

透明感のある穏やかな雰囲気とは逆に、その瞳には確固たる自信とどこか冷徹さが見てとれた。


「……若! 今回は本当にすみません!」

「自分たちがもっと警戒して付いていればこんな事には……!」


二人は深く頭を下げる。


「気にするな。母の命日には、オレでさえ遠ざける親父だ。誰のせいでもない」


「「……しかし……」」


「容体は安定した、問題ない。ただ、借りは返さねばならないがな」