SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし



「うん、なに?」


「あのさぁ、湧人は、どうして説明分かるの? あたしの説明、みんな分からないのに」


ずっと不思議だった。

みんなにはなかなか伝わらない説明が、どうして湧人には分かるのかと。


「……ああ、」


湧人は静かに前を見る。

歩く速度を落として答えた……



「母さん病気の時さ、辛そうで、苦しそうで、言葉もカタコトでしか喋れなくなったんだ……。 母さんが何を言いたいのか、何を言おうとしてるのか理解したくて……オレ、必死で努力したんだ」


「……努力?」


「うん。母さんのカタコトの言葉を集めて、頭の中で分析した。組み替えたりバラバラにしたり繋げたり。その時の状況や声の感じでいろいろ……。 そうしてるうちに、何を言いたいのか自然と分かるようになったんだ」


「……へぇ、」


「たぶん、みくの場合も同じかな。別に意識してやってる訳じゃないけど、自然と分かるんだ。みくが何を言いたいのか、みくの言葉が……」


「……そう、だったんだ……」


謎が解け、頭に一本、スジが通ったような感覚を覚える。

視界が少し開けたような気がした。



「……オレさ、」


視線を前に向けながら湧人が続ける。


「さっきまで、自分の体質が嫌だなって思ってた。何で自分がこんなんなんだろうって……。 でも、今はちょっと違うかな」


「……?」


「だって、みくの役に立てるだろ? 全然自覚ないけどさ、さっきみたいに何か力になれるなら、この体質も悪くないかなって……」


そう言って湧人は少し微笑んだ。


「……湧人……」


「……さ、早く帰ろ? 婆ちゃんの事、一応ご先祖様に頼んで来たけど、心配だし」


「うん!」


あたしは湧人と歩調を合わせる。


「でも、さっきの家のやつの話はだいぶ大丈夫だよ?」


「……ん? 何が?」


「湧人は声も聞けないってやつ。大丈夫。あたしがお母さんとの話、繋ぐから」


そんな会話を交わしながら湧人と道を歩いてる。


「……みく……」


「大丈夫! これで湧人、寂しくない!」


「……別に、寂しくはないけど……。 でも、みくを通して今日は十分母さんを感じられたから……ありがとう」


はにかんだように湧人が微笑む。

どこかの家のヒマワリが、とてもきれいに咲いていた。