SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「ちょっとなに言ってるのっ⁉︎」


「……? なにって? あたし、変なこと、言った?」


「言ったっ! 家出とか! みんなびっくりするだろ! オレんとこまで絶叫聞こえてたし!」


「そうなの? 言葉、うまく言えなかった」


「もう~、」


呆れ顔で湧人は手を差し出してくる。


「……?」


「バッテリー、切れたんだろ? 充電するからすぐかけ直しなよ」


「あ~、うん、」


あたしは湧人に電話を渡した。



「……ねえ、みく。もうちょっといないって……もしかしてここに泊まるつもりなの?」


「うん、お盆終わるまで。お婆ちゃん心配だし。だめ?」


「……別に。だめ、じゃない」


湧人はちょっとツンとした。 


「それに、ご先祖さま……あっ!」


そこであたしは思い出す。


「なに⁉︎ どうしたの⁉︎」


「忘れてた。あたし買い物行かなきゃ」


「買い物?」


「うん。ご先祖さま、いろいろ食べたいって。あたしに買ってこいって言うんだ」


あたしは、さっきご先祖さまから聞いた買い物のメモを湧人に見せた。


「……え⁉︎ だったらオレ行くからいいよ!」


湧人がメモに手をのばす。


「だめだよ」


あたしはさっとその手をかわした。


「湧人。あたし分かってるんだ」


「……分かってるって、何?」


「湧人、まだ調子悪い。分かる。湧人のお母さん言ってた」


「……え? 母さん?」


「そう! 銀色!」

——ガシ!

あたしは湧人の頭を両手で押さえた。

そのまま顔を近付ける……


「……っ!」


「湧人の銀色、濁ってるのはまだ本当じゃない。透明になったら元気だって……」

——コツン。

おでことおでこがぶつかる。


「だから、おとなしくしてて」


超至近距離。
くすんだ銀色にあたしは言った。


「……っ……」


「……あ。下に行く時はどこ通るか言えって。よけるから大丈夫だってご先祖さま。じゃあ、行ってくる」


何故か固まってしまった湧人に言って、あたしは部屋をあとにした。