SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

————————————————
————————————————


「ゲホゲホ! ……みーちゃん、ほんに悪いねえ……ズズッ、」


"ダイコンアメ"とやらをすすりながら、お婆ちゃんがあたしに言う。

ちなみにこの"ダイコンアメ"も湧人のお母さんが用意したものだ。


「ううん。お婆ちゃんは休んでて」


熱が下がってもお婆ちゃんは具合が悪そうだ。

風邪を引くといつも長引くと、ご先祖さまが言っていた。


「んでも~、ゲホ! 明日から盆入りだがら〜いろいろやんねば、ご先祖様来れねえがら〜」


「ムリしないで寝てろって言ってる」


立ち上がろうとしたお婆ちゃんにあたしは言う。


「ご先祖さまがそう言ってる。その、写真のお爺ちゃんが……」


あたしはお婆ちゃんの部屋に飾られていた写真を指さした。


「ほえっ⁉︎ じーさんがっ⁉︎」


「それに、ご先祖さま、もう来てる」


「……来、とる?」


「うん。みんなお婆ちゃん心配してる。風邪、早く治せって、言ってる」


「ほええ~!!」


お婆ちゃんは何故か宙に向かって拝みだした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『『わ~!!』』

"ドドドドド!"

おかっぱ頭の子供たちが走り回る。


「……よし、」


ぐっすり寝入るお婆ちゃんを見つめ、あたしはスッと立ち上がる。

湧人の部屋へと足を向けた。


「…………」


この広い日本風家屋。

あちこちがリフォームされていて、所どころ木の色が違う。


——ガチャ、

「……湧人?」


ドアを開け、そこだけ洋風の湧人の部屋へあたしは入る。

白を基調とした清潔感のある部屋。

飾られたゴツゴツした石だけが、所々で鮮やかな色彩を放っている。


「……みく……」


外を眺めていた湧人がこっちに振り向いた。