「……みくが、作ったの?」
意外そうな表情を浮かべて湧人があたしに聞いてくる。
「……たぶん。覚えてないけど……」
「……は?」
少し顔をしかめながらも、湧人はテーブルの方へやってきた。
……? ……あれ。
前うしろ逆だった服がいつの間にか直っていた。
「……食べて、いい?」
「うん」
飲み物を一口飲み、まず手をつけたのはお粥。
「……おいしい……」
パクパクと湧人の手が止まらない。
あっという間にお粥の器がカラになった。
続いて、しょうが湯へと手がのびる。
少し躊躇しながら、すっとそれを流しこみ——、
「……!」
途端に驚いた顔をした。
「……どうして……」
目を見開き、じっとカップの中を見つめている。
「……湧人? どうしたの?」
「……母さんの、味……」
顔を覗き込んだあたしに、湧人はポツリ、そう言った。
「……母さん?」
「……オレ、甘いしょうが湯が苦手で、だから母さん、甘くないしょうが湯のレシピ考えてくれたんだ。 風邪で寝込んだ時、いつもこれを作ってくれてた。 ……それがどうして、どうしてみくがこれを……?」
「…………」
……ん? ……あれ?
あたしは首を傾ける。
実は少し、あたしは自分の記憶がない。
夜明け前、ふっと眠気に襲われて、気付いたらキッチンに立っていた。
その時にはすでに目の前にこれらの料理が並んでいたのだ。
『『『……いじらしいのう……』』』
目を覚ましたあたしにご先祖さまはそう言った。
どうやら新しい人があたしに憑依したらしく、あたしの体を借り、料理を作ったのだと聞かされた。
——っ⁉︎
そこであたしはようやく気が付く。
……そうか、新しい人って……
……そうだったんだ……


