SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし



満月の夜の異変。

最初の頃はずっとユリの力に頼っていた。

でも、悲しい感情を取り戻したあの日から、あたしはユリに頼るのをやめた。


だって、何となく気付いたから。

ちゃんと自分の記憶と向き合わなければ、失った感情は取り戻せないんだって。

だから満月の日は、あえて一人でやり過ごしてきた。

心配するみんなを遠ざけて……


幸いあれ以来、めちゃくちゃに酷い状態になる事はなかったし、あたし自身、もう大丈夫だとタカをくくってもいたのだ。

それなのに……



「……まあ、ユリは大丈夫だ。一樹が精神治療でユリを癒したみたいだし、明日になればまた元気なユリが見られるサ♪」


「……うん、」


“ 一樹 ” という言葉が胸に刺さった。


「……はぁ、」


「ん~? どしたあ~?」


黒木が顔をのぞき込む。


「……あ~、黒木。あたしの思い出した感情、厄介だ」


あたしは、さっきの自分を思い出した。

止まらなかった。止められなかった。あの時、怒りと憎しみの感情が……

自分が自分じゃなくなって、衝動のままに体が動いて……



「……怒りと、憎しみか? ……確かに、厄介だなぁ~ 」


黒木はソファに深くもたれた。



「なんで二つも思い出した? 一気に二つも」


「ン~、二つは隣合わせだからな。連動しやすいンだよ 」


「……そう、なんだ……」


あたしは窓の外を眺める。

もうすっかり深い夜。

暗闇だけが静かな街に居座っている。



「こんなのいらなかったかも。黒木を傷つけて、一樹にも……」


言葉が止まる……