「……美空、バッグはどうしたんです? 学校以外でも出かける時には持ち歩かないと……」


「 そうなの?」


「 そうなんです。何の為にいろいろ詰め込んでいると思ってるんです?」


「……あ~、」


……そうか。

あたしはバッグの中身を思い出す。

紺の大きいバッグには、変装用の黒のパーカー、帽子、マスク、その他いろいろ小道具が詰め込まれていた。


「 いつ、どんな時しるしが呼ぶか分からないのですから 」


「 わかった 」


「……今日は迷い犬、でしたか。無事に役目は果たせたようですが、ちょっと運が悪かったですかね 」


「……あたし、話したっけ?」


「 ええ。先ほど警察官の方からも情報を頂きました 」


「……そっか。一ノ瀬の言った通りだった。警察は厄介だ 」


「 そうですねえ……」


赤信号。

交差点を見つめながら一樹は何か考え込む。

そのうちフッと頬を緩めた。


「……いつき?」


「……ああ、いえ。まさかわたしが、あなたの兄と名乗るとは……」


一樹は少し目を細める。


「……?」


「 何年ぶりかと思いましてね。その言葉、久しく口にしていなかったものですから 」


信号が青に変わり、一樹は静かにアクセルを踏み込む。