SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

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「珍しいわね、一樹くんまで寝ちゃって。よっぽど疲れてたのね 」


リビングでは盛大なイビキをかいて床で眠る黒木と、少し離れたソファにもたれて、一樹がスヤスヤと眠りについていた。


「 ユリ、一樹、大丈夫なの?」


あたしはやっぱり一樹の様子が気になっていた。


「……ああ、一樹くん?」


ユリは薄手のタオルケットを一樹にかけた。


「 大変だと思うわ。一樹くん、D.S.Pじゃ唯一のテレパスだし。

それに、実力もすごいからイギリスやドイツの組織からも協力を求められたりしてるのよ。

実際キツイと思うわよ。読み取った記憶はどんどん蓄積されていくばかりで、自分で精神治療を行えるといっても、やっぱり限界があるもの 」


「……ユリが、何とかできないの?」


「 私は心の傷を癒すことは出来るけど、記憶を浄化させる力はないわ、残念ながら 」


「……浄化?」


「 記憶読破って、とにかく膨大な量の情報量が頭に入るのよ。その人の生きてきた人生丸ごと全ての記憶が……そこから必要なものだけ一樹くんは抜き出すの 」


「……?」


「 つまり、必要のない余計なものまで頭に入っちゃってるのよ。……例えば対象が、小さい頃どこで転んだとか、昨日何を食べて何を残したとか、本当に細かい記憶まで全部。 いわば記憶のゴミね 」


「……ゴミ?」


「それを取り払えたらいいんだけど、取り払うには一樹くんと同じだけの実力を持ったテレパス能力者じゃないと無理なのよ。

でも困った事に一樹くんクラスの能力者はそうは存在しない……

心配だわ。いつか一樹くんの精神が持たなくなって崩壊してしまったらって 」


ユリはぼんやり宙を見つめた。