「 あ~。木が、見たくて 」
「……木?」
「 この、木 」
あたしはさっと指差した。
少年の視線が木に移る……
「…………」
少年は黙って木を見上げる。
その姿は凛としながらも、どこか寂しさを帯びたような雰囲気だった。
「……少年?」
あたしはそんな少年が、何故かとても気になった。
思わず顔をのぞき込む。
近くで見て見ると、少年はとてもきれいな顔立ちをしていた。
「……ハンカチの木 」
少年がぽつりとつぶやく。
「……え?」
「 これ、ハンカチの木って言うんだ。ほら、まるでハンカチがぶら下がってるみたいだろ? だから…… 」
「……ハンカチの、木……」
その瞬間、脳裏に浮かぶ景色がより鮮やかになった。
……そうだ。
"ハンカチの木"
それが、この木の名前……
「 でも、いくらこの木が見たいからって勝手に入って来ちゃだめだろ? 不法侵入っていうんだよ、そういうの 」
少年がツンとした顔を向ける。
あたしはもう一度ハンカチの木を見上げながら、
「……好きだったんだ 」
一言、そうつぶやいた。
「……え?」
「 木の家の庭にあった。思い出した名前。ハンカチの木。好きだった。ハンカチの木お母さん。あたし、思い出したんだ……」
「…………」