泣くだけ泣いて、ちょっと落ち着いた。最近、涙腺が弛くなってる気がするな。
 誰かの気配に気付き……って、見なくても誰かは分かるよ?首だけ振り返る。そこには姉さん。でも、呆然と立ち尽くしている。私はここで男の人の胸にいる状況を思い出し、ハッとなって、その人を押すように離れた。
「姉さんッ、これは、その、違うんだ!」
そんな言い訳も虚しく、響きはすぐに消えて無くなる。だって、姉さんが見ているのは、私ではなく、あの人。切れ長の姉さんの瞳があれだけ丸く見開かれているのを初めて見たよ。
 私の背後で、あの人が踵を返して遠ざかろうとするのが分かった。姉さんは何かを言おうとするものの、唇が僅かに動いただけ。顧みると、あの人の背中が遠ざかっていくのだけ見えた。でも、その表情を伺い知ることは、もうできなかった。
 その背中を、姉さんの悲痛とも言える声が追い掛ける。
「ラベル様!……なぜ貴方がここに!?御無事だったのですか?」