長城砦から引き返した領都兵が程無くして到着し、魔物の残党はあっという間に駆逐されていった。そして、私たちは長城砦攻略の算段をしていた。そう、『救済』から砦を取り返さなくちゃならない。
「眩み砦のとき、一度経験してはいますが、守りに入った要塞を攻めるとなるとかなり厳しい戦いになります。しかも、敵の主力は無限に沸き出す不死怪物。兵糧攻めも通じぬ相手です。今回は時間も私たちの敵となるということです。如何に迅速に首領を見つけ出し、成敗できるかが鍵となりますね。
 ただ、相手は私たちを領都の外へ誘い出した後、複数の企てを同時に進め、目的を果たしていることから、全く油断ならぬ相手。そして、こちらの動きを察知してもおります。戦術だけでなく、戦略も十二分に練らなければ勝ち目は万に一つもありません。」
「うへぇ。そんな冷静に危機的状況の分析されると、やる気が出ません……。」
「マチルダ様。」
「……はぁーい、ごめんなさい。
 ええっと、敵はアンデッドが主力。アーチャーやメイジもいるよね。でも、きっと割合は少ない。頭数は厄介だけど、普通のスケルトンやゾンビなら、姉さん一人で何百体でも大丈夫な気がする。
 トバちゃんなら余程の重武装のアンデッドじゃない限り、弓で仕止めていけるから、姉さんが歩兵を惹き付けているときに弓兵、魔術師系をお願いできそう。
 ……危険だけど、姉さんとトバちゃんに囮になってもらうのが定石だと思う。」
姉さんは表情を変えずに私に聞き返す。
「かりんはどうします?」
「またお留守番なんてイヤだよぉ!」
「はいはい。分かってるよ。
 砦には確実に『救済』の連中もいる。こんな大事な場面に出てくる奴等は、教団の中でも相当な力をもってるヤツだと思う。」
「ほう、そこにかりんをぶつけると?勝算はあるのですか?」
「これまでの戦いで分かったことがある。それは、魔術を得意とする者同士の戦いは持久戦になりやすいってこと。お互いが高い魔法防御をもっているからね。コカトリス相手に見せたかりんちゃんの魔力の高さからすると、やや守りに重点を置けば、複数相手でも十分に時間は稼げると思うんだよね。」
「……つまり、マチルダ様お一人で敵の首領を狙いに行かれると?覚者であるマチルダ様の存在は確実に相手に捕捉されます。その点は如何に致しますか?」
「そうなんだよね。でも、『救済』の奴等は私の動きを、私に気付かれずに把握してると思ってる。そのことを逆に利用してやればいいんじゃないかと思うんだ。」