「あいたたた……。畜生、あの野郎ぉ!」
「マチルダ様、お言葉に品がありません。が、予想外でしたね、あそこから反撃する余力があるとは。」
手が届きそうな高さで浮遊しているサロモを苦々しく見詰めながら、姉さんも言う。アイツの左半身は消し飛んでいる。なのに、まさか逆に撃ち落とされるなんて。……あの瞬間、強力な電撃が放出されたんだ。私の右手は痺れて力が入らない。
「まだだ!俺様が極めし魔術はこんなものではないわ!」
サロモが吠えた。ヤツの残された右腕、握られた魔杖から青い魔力が迸る。あれは……ブリザードアロー!巨大で鋭い氷の刃が冷たい音を上げ、私の胸、心臓の本来あるべき所へ恐ろしい勢いで迫る。
「罷りならん!」
姉さんだ。フィオーラの火焔の魔術を防いだように、青い鋒も私の目の前で受け止めようとする。……暫しの拮抗、息が詰まりそうだ。姉さん、頑張って!
 次の瞬間、サロモの米神から血飛沫が上がる。もうきっと限界なんだ。なんだけど、青い魔力の奔流は益々輝きを増した。そして……信じられないことが起こった。サロモの刃が姉さんの甲冑を、胸を貫いたんだ!吹き飛ぶ姉さん。そのまま私に迫る氷刃。世界がゆっくり動いているように感じた。無意識に短剣で受け止めようとするんだけど、痺れた腕は思うように動かなかった。あ、やられる。頭の中は妙に冷静だったな。