あたしの鞄を手渡すヒデの腕を、あたしは引っ張る。

そして、ヒデにだけ聞こえる声で言う。


「約束、ちゃんと覚えてる?あたしが、悪者になってあげるよ?」


そんなあたしに、ヒデは笑って言う。


「ありがと。でも、あおいは大切な人だからできないよ」


ゆっくりとあたしから離れ、ヒデは歩みを進めた。

そんなヒデの姿を、あたしはずっと見ていた。

姿が見えなくなった後も、ヒデの残像を見つめ続けた。

いつまで、そうしていたかわからない。

気付けば、空から雨が零れ落ちた。


「送る」


雨が降っても動かないあたしに、あおが言う。

あたしはゆっくりと顔を動かし、あおのこと見る。