「(だからそんなこと、言わないで)」



「.............茉莉」



むぅっ、と唇を突き出して不満げな顔をすると、蒼汰は私の名前を呟いて瞳を揺らした。



────間も無く、○○駅、○○駅、



私たちの降りる駅を伝えるアナウンスが流れていった。



私は、じっと逸らさずに蒼汰を見つめる。



何秒か、何分か、たったころ。




遠慮がちに聞こえた声に私たちはハッとそちらを向いた。




「あーー、お取り込み中、悪いんだけど.............、席使ってもいいよ?」



「え.............」



「ごめんな、わがまま言って。席、使ってもいいから」




申し訳なさそうに言うさっきの男の人に慌てて返事をしようとスマホを構える。



けれど、文字を打ち込む前に蒼汰が言ってくれた。



「あ、俺たちもう降りるんで。気にしないで座ってください。すみませんでした」



「あ、そうなの?」



「はい」




そういった蒼汰の声に合わせて、電車がゆっくりと停車した。



シューーー、とドアが開く。



「(すみませんでした、ありがとうございました)」



ぺこりと頭を下げ、私の手を取ってドアへ向かおうとする蒼汰に引っ張られながら、私は超特急で文字を打ち込み画面を見せた。



それから、頭を下げて電車を降りる。



走り始めた電車を振り返ると、男の人は手を振ってくれていた。