「だから、俺が席を譲ります。その代わり、そっちの席は開けておいていただけませんか」


「なんでだよ、空いてんじゃねぇか」


「彼女が来るんです。そちらの方は俺が譲った席に座るとして、貴方はまだ若いでしょう?譲っていただけませんか」



「はあ?彼女だって若いだろ、何言ってんだよ」



なんだか、あまり穏やかじゃなさそうだった。


75歳くらいのお婆ちゃんと、その隣に蒼汰よりも年上の大学生ぐらいの男の人が蒼汰と話している。


どうやら、席のことについてのようだった。



いいんだよ、別に私は立っていても。


そう声に出したけど、その声は人には伝わらない。



蒼汰なら、わかってくれるのに。


蒼汰は、私に背を向けていて気づかない。


私は蒼汰に伝えるため、歩み寄ろうとした。



「若いけど、彼女にはこの席が必要なんです。立ってると、危険なので」


「なんで危険なんだよ、わけわかんねえ」


「お願いです。譲っていただけませんか」



思わず、立ち止まる。



「もういいじゃないの、ありがとう。こちらの席だけ、座らせていただきますね」


「っ、ばあちゃん!」


「いいじゃないの、貴方は若いんだから。正論でしょう?」



「だけど.............っ、。そんなこと言ったらこいつの彼女だってっ」



「わがまま言わないの」



「はぁ?!どっちがワガママだっていたらそっちだろ!なあなんで危険なのか言ってみろよ」


「.............」


「無視すんなよ!」



どんどんヒートアップしていく大学生ぐらいの男の人が蒼汰を責め立てた。


なぜか黙り込んだ蒼汰。


どうしたんだろう?


言ってくれても、いいんだよ。


私が立ってたら危険な理由くらい。


別に気にしないよ。




「.............」


「おい!」




「(あの!!)」



「茉莉.............」




私のために責め立てられる蒼汰を見ていられなくて、思わず蒼汰と男の人の間に飛び込んだ。