「で?仕方なくデートすることになったんだ?」

ホームルーム前の教室。
気の毒そうにわたしを見てりんご100%のパックジュースを飲むのは山井紗理奈(やまいさりな)だ。
わたしの中学時代からの親友で、1番の理解者。


「うん、本当に最悪。真子の元カレだからって油断した。せっかくはやく家出たのに結局同じ時間だし!絶対日曜日ハンカチだけ返してもらってすぐ帰る!」


遅刻するのも嫌だし、こいつとは本当に話にならないと思ってとりあえずデートの約束をするしかなかった。

「へぇ、デートってどこ行くの?」


紗理奈はニヤニヤとわたしの顔をのぞき込んだ。
紗理奈までわたしで遊ぶのか……



「知らないけど、無理やり連絡先交換させられた」

ため息を吐いてそのまま顔を机に突っ伏した。
その時、ピロリン。と、無料通信アプリの着信音が鳴る。


「あれ?噂の西岡くんじゃない?」

紗理奈は机に置かれた私のケータイをのぞき込んで、通知画面からその内容を声に出した。



「《颯汰だけど、遅刻しなかった?》だってさ」


わたしはケータイを掴んで、《だまれ》とだけ打った。
丁度ホームルームの時間を知らせるチャイムが鳴ったので、そのまま胸ポケットに突っ込んだ。