「わたし、遅刻するんで行きますね」

「ま、まって!これ!」


ぐちゃぐちゃになった感情から逃げるためにその場から立ち去ろう踵を返そうとすると、彼は“なにか”をわたしの前に差し出した。


「あ、わたしのハンカチ」

「電車降りる時、落ちてたよ」


ニッコリと笑った。
さすが真子の元カレというか、顔は確かにかっこいい。



「ありがとうございま……ちょっと!」


わたしがそのハンカチを掴もうとするとひょいと頭上高くまで持ち上げた。
身長差があるせいで、ぴょんぴょんはねても届かない。



「返してよ!」


「やだ」


意地悪そうな目をして、またさっきとは違った表情でニッコリと笑う。
性格悪いこいつ。真子の元カレだなんて信じられない!

返してくれる気はなさそうで、ハンカチに向かって伸ばしたわたしの腕をつかんで下におろした。



「ねぇ、急いでるしあんたみたいなバカと遊んでる暇ないから。返して」


まともに話すのは初めてだけど、さすがに腹が立ってつい口調が荒くなる。


「返して欲しい?」


「あたりまえでしょ!」


そんなの、当たり前だ。
なぜなら…………