「ほんとにやだ、うざい、帰りたい」

「前売り券二枚あるんだよね」


若者の間で流行っている恋愛モノの映画のタイトルが印刷された前売り券と思われる紙を、わたしの前でひらつかせた。

「っそれ!」

声が出てしまったと気づいた時には遅かった。両手を口元にあてて誤魔化そうとするけど、やっぱりダメだったみたいで。


「あれ?未子ちゃんもしかしてこれ観たい?」



わたしの今一番観たい映画だ。原作のコミックスは全巻持ってるし、放送中のアニメだって夜中に放送されてるけど毎週夜更かししてリアルタイムで観ている。

目を逸らして口をぎゅっと結び、スカートのチュールの生地を掴んだ。

この彼の意地悪そうな声が、わたしは嫌いだ。むかつく。



「……観たい」

聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームだった。


返事が来ないので不思議に思って顔を見上げると、彼は口をぽかんと開けて固まってた。


「やけに素直だな。びっくりした」

「映画には罪ないからね」


わたしの返事が意外だったみたいだ。

こいつと行くのは不本意だけど、まぁ映画なら最中に喋らなくてもいいしタダなら超ラッキー。とでも思っておこう。

電車の切符を買っておいてくれたみたいで、すぐに映画館へと向かった。