顔も知らないような人からの呼び出しだと思っていたから。

知った顔の彼がいたことで、ほんの少しだけ肩の力が抜けて小さく溜息が零れてしまう。


それは決して秋山くんに対して出てしまったものではないけれど。

彼には、そう思ってしまったのだろう。

少し困ったように眉を下げて、苦笑いを浮かべていた。


「ゴメンね、呼び出したりして」


その言葉もどこか自信がなくて、戸惑いも見える。

普段、教室で見る彼とは違うその姿にあたしまで戸惑ってしまう。

小さく首を左右に振るあたしたちの間を風が吹き抜けていくと。

ザワザワと近くの桜の木が音を立てた。


彼は真っ黒なサラサラな髪を右手で押さえて、風が通り過ぎるのを待つと。

少し乱れた髪を掻きあげ、真っ直ぐにあたしを見つめる瞳がまた優しく細められた。


秋山拓海。

学年首位でスポーツ万能、バスケ部のエース。

180cm以上の長身で。

スラッとしてるように見えて、体はしっかりと鍛えられていて。

サラサラの黒髪。

銀縁のメガネの奥の爽やかな瞳。

いつも穏やかで落ち着いていて。

誰からも慕われていて、優しく頼りになると評判の爽やか青年だ。


あぁ、うん。

これも新聞部の愛美情報だけど。