「よっ! 早かったな」
嫌味かと言うくらい意地の悪い顔をしてる櫻井を軽く睨みつけるのは、恥ずかしさを紛らわすため。
目の前の櫻井は、白のTシャツにハーフパンツと言うラフな格好で。
首にはタオルをかけていて、長めの髪からは汗が滴っていた。
あっちーっと言いながら汗を拭う姿を思わず凝視してしまったのは。
その首からかけられているタオルが、どう見ても女物だったからだ。
自転車を適当に開いているスペースに止めて、櫻井に近づいて気づく。
微かに香る甘い匂い。
……これって。
まさか、なんて思う自分と。
たまたまだろ、と思う自分がいて。
ザワザワとなぜか胸騒ぎがした。
似てるんだ。
昨日、初めて近くで感じた彼女の香りに。
公園の中に入っていく櫻井を追いかけて。
隣に並んだことで、色濃く香るその甘い匂い。
「…ん、どした?」
櫻井の首にかかるタオルを見たまま考え込むように固まる俺に気づいて。
真っ直ぐ前を向いていた櫻井の視線が、不意に俺に向けられた。
「櫻井って、彼女いたか?」

