「数学の参考書だったよね」
「うん」
「ちょっと待ってて」
そう言って、参考書コーナーへと消えていった彼の背中を見送ってから。
小さな溜息を吐いた。
「おすすめは、この参考書かな?」
秋山くんが持って来たのは2冊の参考書。
そのうちの一つを、あたしの前に差し出した。
ペラペラとめくってみながら、秋山くんの声に耳を傾ける。
「基本的なものならこっち、応用が詳しく載ってるのはこっち」
「あたし、数学ってホント苦手で……」
「じゃあ、こっちかな」
基本が詳しく載ってるという参考書と、自分のカバンの中から出したもう1冊の参考書。
すごく使い込まれてて、マーカーでラインもたくさん引いてある。
「これは俺の愛用してた参考書だけど、もし良かったらこれも使ってみて」
「え、でも、それじゃあ秋山くんのが……」
「ん、大丈夫。今は使ってないから気にしなくてもいいよ」
使ってない参考書を、わざわざ持ってきてくれたんだ。
「…ありがとう」
その好意を素直に受け取って、秋山くんに笑顔を向けた。

