「さてと、そろそろ行こうかな…」


あたしの独り言は、教室の中にやけに響いてしまって。

まだ残る生徒たちはチラリとこっちを見たような気がして。

恥ずかしくなって慌てて教室を後にした。


向うのは図書室。

部活前の秋山くんに、おすすめの数学の参考書を教えてもらうため。


わざわざ放課後にしてくれたのは、きっと秋山くんの優しさで。

なるべく目立たないようにの配慮なのだろう。


あたしが周りの目を気にしてること、ちゃんとわかってくれてることが嬉しかったけど。

そのせいで、部活開始時間に遅らせてしまうことに悪いなと思ってしまう。


秋山くんは大丈夫だって言ってたけど。

本当に大丈夫なのかな、無理していないかな、っていろいろ考えてしまう。



図書室にはほとんど誰もいなかった。

そのせいで、校庭や校内の音がよく聞こえてくる。


いつもの窓際の席に腰をかけた。

そしていつものように外を眺める。

今朝、ここから速水翔を見かけたんだよね。


朝日が反射してキラキラした色素の薄い髪。

友だちといるときの素の笑顔。


身長が思っていた以上に高かった。

フワリと爽やかな匂いがした。

目の前で見たキレイな顔立ち、破壊力抜群の微笑み。


ドキドキしないほうが可笑しいって。


ここから見える校庭をしばらく眺めて、無意識に速水翔のことを考えてた。