「……あっ」


いた。

そこには、今朝と同じように校庭を眺める神崎ゆずの姿があった。


風になびくサラサラの髪は、太陽の光に反射してキラキラして見えた。

あの場所は、彼女の特等席なのかもしれない。

一日に同じ場所で彼女を見かけたことが、なんだか嬉しくてつい口許が緩んでしまう。


あそこで何をしているのだろう。

大好きな苺ケーキの誘いを断ってまでの用って、いったいなんなんだろう。


俺が見ていることには気がつくことなく、彼女はただボーっと外を眺めていた。

それは決して笑顔ではなかったけれど。

その少し愁いを帯びた表情がすごく綺麗で見惚れてしまうくらいだった。


そんな彼女が、フッと視線を室内に戻すと柔らかな笑みを作る。

それは昼休みに想像したような彼女の笑顔ではなくて、ハッキリと見えた優しい笑み。

誰かが彼女に近寄り。

何か言葉を交わす。


「……えっ」


彼女の向かい側。

笑顔を向けられたその相手がチラッと見えた瞬間。

俺の目の前は、真っ暗になった。


ニヤけていたはずの顔が、一瞬で強張る。


「秋山……」


なんで、おまえがそこにいるんだよ。


二人が笑い合う姿をこれ以上見ていたくなくて。

俺の視界から二人をシャットダウンさせてその場を立ち去る。


俺の中でムクムクと大きくなっていく真っ黒な感情が。

今にも身体中から溢れてしまいそうなのを、必死に抑えながら。