「俺……好きな子がいるんだ」
「えっ……」
「俺の片思い。でも、彼女じゃなきゃダメなんだ」
今までだったら、バスケを理由に断ってきた。
今はバスケがを一番だから。
バスケに集中したいから。
そんな言葉で断ってきた。
だから、こんなふうに自分の気持ちを伝えたのは初めてだった。
「だから、ゴメンね」
もう一度謝ると、中村さんは小さく首を左右に振っていた。
「…い、いえ。忙しいのに、わざわざ来てくれてありがとうございました」
「ハハ、どうして敬語?」
「え、あ…うん。なんとなく、かな」
思わず笑ってしまった俺を見て、彼女も恥ずかしそうに微笑んだ。
このままここにいても、何もかわらない。
これ以上、彼女の言葉を聞いたところで。
俺からの答えはかわることはない。
「じゃあ、部活だから」
「あ、うん……」
まだ何か言いたそうだった彼女に、『じゃあね』と言ってから踵を返すと。
「あの、頑張って…ね」
背中から、彼女の声が響いてきた。

