いや、まさか。
そんなわけ、ない。
そんな動揺が、俺の視線をユラユラと揺らす。
だけど彼女から目を逸らせなくて、ソワソワと落ち着きもなくなっていく。
俺を見てる…?
なんて自意識過剰なんだろうと思う。
だけど、そうであってほしいと望んでしまう。
たまたま見ていただけかもしれない。
もしかしたら、俺じゃない誰かを見ていたのかもしれない。
この中に、目当ての相手がいるのかもしれない。
そんな思考がグルグルと頭の中を駆け巡って、整理しようにもテンパリすぎて追いつかない。
この距離。
表情まではよくわからないはずの距離なのに。
彼女が優しく微笑んでいるのが雰囲気から伝わってくる。
視線はずっとこっちに向けたまま。
その視線の先が、俺だったらいいのに……
そんな願いも。
次の瞬間に打ち砕かれた。
隣に来た秋山が、俺と同じように校舎へと視線を向けた瞬間。
神崎ゆずが小さく手を振ったのが見えた。
それは、俺じゃなく秋山に向けてだった。

