いつものようになんとなく授業を受けて。
休み時間になれば櫻井とくだらない話をして。
毎日が同じように過ぎていく。
だけど、水曜のこの時間だけは、4時間目の前の休み時間だけは決まって机に伏せて寝たフリをする。
廊下側の窓を少しだけ開けて。
フワッと香るのは、昨日も感じた甘い匂い。
香水?
シャンプー?
『ゆず、今日の放課後ヒマ?』
『あぁ…ゴメンね。今日はちょっと…』
『そっか、残念。駅前のケーキ屋さんに苺ケーキの新作発表って旗が立ってたから、一緒に行けたらな…っと思ったんだけど』
『新作!? 行きたい…けど、明日じゃダメ?』
『ゴメン、明日はあたしバイトがあるの』
『えぇ…そっか、ううーっ苺ケーキ』
通り過ぎていく間だけ聞こえてくる会話。
その声だけで、シュン…と落ち込んだ姿が思い浮かんだ。
だけど、すぐに違う話題になって彼女の笑い声が廊下に響く。
彼女のそのコロコロ変わる声色に、思わず笑いそうになってしまう。
これが唯一の、俺の楽しみだ。
寝たフリして。
彼女がここを通るのをただ待つだけ。
もちろん声をかけることはないし、ここに俺がいることを彼女は知らないだろう。
自分でも、何やってるんだろ…って思う。
こんなヘタレな自分、かっこ悪いし、気持ち悪いと思う。
それでも、彼女のその柔らかな声を聞きたくて。
こうやって、今日も寝たフリをするんだ。

