櫻井は、俺の隣の席に豪快に座る。
「寝坊か?」
偉そうに踏ん反り返って。
だけど、教室にいるときはいつも俺の側にいてくれる。
もちろん、女避けのためだけど。
櫻井も俺も、わざわざそんなことを口にはしなかった。
「いや、ちょっとな……」
まさか、神崎ゆず見惚れてて遅れたなんて。
言えるわけがないだろう。
櫻井は特に気にすることなく、ふーんとなんとなく頷きながらスマホを弄っていた。
そんな俺たちのところに近づいてきた他の友達が、俺の机の上に水色の封筒をさりげなく置いていく。
それがなんなのか、なんて言わなくてもなんとなくわかる。
「またか…」
櫻井がその封筒を見てポツリと言葉を零した。
「いっそ、彼女作っちまえば?」
「はっ、簡単に言うなよ」
「簡単だろ?」
そういう櫻井の言葉に被さるようにチャイムが鳴ると、櫻井が自分の席へと戻っていった。
簡単かもしれない。
でも、それじゃダメなんだ。
俺が欲しいのはただの“彼女”ではないのだから。
片思い歴、1年。
……そんなの、恥ずかしくて言えるわけがない。

