振り返った秋山は、これまた爽やかに笑い片手を上げた。
そんな秋山に応えるように、フッと頬を緩め片手を上げようとしたとき。
秋山の後ろ。
さっき、図書室の窓から見えた彼女が、友だちと走っていく姿が目に飛び込んできた。
サラサラとなびかせているセミロングの髪からは、甘い香りがするような気がして。
無意識にその香りを感じようと大きく息を吸い込んだところで、もちろんそれは届くはずもない。
それでも、昨日初めて感じた彼女のその香りを今でも鮮明に覚えているせいで。
それだけで、なんだかクラクラしそうだ。
あぁ…やっぱり、変態かも。
それでもいいか、なんて自嘲の笑みを漏らす自分がいる。
神崎ゆずが見えなくなったのを確認してから、自分のクラスへと向かっていった。
教室にはギリギリで入り、廊下側の一番後ろの自分の席にドカッと身体をあずけように座る。
なんだかよくわからないけど、朝から疲れた。
はぁ…と短く息を吐く俺のところに。
「遅かったな」
ポケットに両手を突っ込んで気だるそうに歩いてくる大男が目に入った。
櫻井隼人。
俺のクラスメイトで、バスケ仲間だ。

