廊下のところどころには彼を一目見ようと、いつの間にか集まった女子生徒たちが見えて。
やっぱり彼はモテるんだな…なんて、その光景をただ呆然と眺めていた。
「はぁ~、近くで見ると迫力あるわね」
すっかり可奈の存在を忘れていたせいで、急に耳元で聞こえてその声にビクッと肩を震わせた。
あたしと同じように、去っていく速水翔の後ろ姿を見ていた可奈が。
『さすがだね…』なんて感心してて。
あたしは慌てて、速水翔から視線を逸らした。
別に……
見惚れていたわけじゃないもん。
心の中でそう呟いて。
誰に言い訳してるんだろう…と自分でつっこむ。
……何やってるんだろ。
もう、ほとんど見えなくなった彼の姿を思い出してまた深く溜息を吐いた。
彼は、あたしと同じで、ある意味この高校では有名人だった。
あたしについた称号『校内一の美少女』。
速水翔についた称号『校内一モテる男』。
確かにカッコいいと思う。
校内一モテる男。あながち嘘じゃないのかもしれない。
でもあたしは、彼のことが苦手だった。
あの完璧すぎる笑顔が、なんだか怖くて好きじゃなかった。
どこか作り物みたいな、仮面みたいな爽やかすぎる笑顔は偽者みたいで。
あたしが理想の“神崎ゆず”を演じていたように。
彼もまた理想の“速水翔”を演じてるんじゃないかって思ってた。

