「秋山くんなら、少し前に教室出て行ったよ?」
動揺してることを悟られないように、平静を装ってニコリと笑う。
『残念だったね?』と少し上目遣いに彼を見つめて。
そっと彼の腕に触れた。
こんなことで、速水翔がどうこうなるなんて思ってなかったけれど。
案の定、なんでもないことのように彼もあたしに笑顔を返すのだ。
「入れ違いか、じゃあ体育館行ってみるね」
「うん、これから部活?」
速水翔も、秋山くんと同じバスケ部だ。
「そうだよ。部活前に秋山に聞きたいことがあったけど少し遅かったみたいだね」
残念、と口で言う割りに、たいして残念そうに見えないその表情に少し疑問に思いつつ。
「頑張ってね」
当たり障りない、そんなエールを一応送っておく。
「うん、ありがとう。…じゃあまたね? 神崎さん」
さっきまでの爽やかすぎる笑顔を、一瞬だけ意味深な笑みに変えて。
あたしに手を振って来た道を戻っていく。
“じゃあまたね? 神崎さん”?
彼の残していった言葉と、あの意味深な笑みが頭から離れなくて。
ポカンとしたまま彼の背中を見送った。

