「大丈夫?」
何も答えないあたしの顔を覗き込むように顔を近づけられたことで、思わず逃げるように半歩後ろに下がった。
「だ、大丈夫…です」
こんなに近くで見たのは初めてだった。
「そう、良かった。ちょっと考え事してて、ゴメンね?」
「あ、あたしも。ちゃんと前見てなかったから…ご、ごめんなさい」
相変わらずの爽やかすぎる笑みで。
動揺してるあたしとは違って、落ち着いた動作で落ちたカバンを拾って手渡してくれる。
「あ、ありがとう…」
今さらながら乱れているであろう髪を手櫛で整えながら、そのカバンを受け取ると。
不意に伸びてきた手が、あたしの頬を優しく掠めた。
「髪の毛、口に入ってたから」
「あ、ありがとう…」
「どういたしまして」
さっきから同じような言葉しか口にしていなくて。
しかも、彼の行動一つ一つに馬鹿みたいにドキドキしてる。
そんなあたしを見て、フッと笑うその笑顔さえ、キラキラして見えるその人は。
校内一モテる男、速水翔。
そう。
いつも、昼休みの校庭でバスケをしている姿しかほとんど見たことのない彼だった。

