秋山は櫻井とゆずのことを知っているのだろうか。
昼休みに櫻井が来なかった理由を知っているのだろうか。
いつもどおり秋山を見て、どうして平然としていられるのだろうと思う。
俺には、そんな余裕なんてないのに。
歩くスピードが極端に遅くなった俺を振り返り、怪訝そうな顔を向ける。
だけど、秋山は何も聞いてこない。
「先、行くよ」
前を歩く秋山の背中を見て、どうしようもない苛立ちを覚えた。
きっと、それは秋山に対してではなくて。
余裕の欠片もない、自分自身にだ。
「もし、神崎ゆずに彼氏がいたとしたらどうする?」
俺の突然の問いに、秋山はゆっくりと振り返った。
『何言ってんだ』と冷たい瞳の秋山と目が合う。
「何だそれ」
呆れた笑みを浮かべ、はぁ…と吐き出された溜息。
「ゆずちゃんがそう言ったの?」
いつもより少し低くなった声が、誰もいない廊下に響く。
「ゆずちゃんが、彼氏がいるって言ったのか?」
もう一度繰り返された言葉は、さらに低くなった声で放たれて。
憐れんだような瞳が俺を見据える。

