相手が誰かなんて言ってないのに。
その相手を勝手にゆずなんだと決め付けていた。
櫻井が、相手を思い出して優しくなんて笑うから。
その顔が、昨日櫻井を見つめていたときのゆずの顔に似てるから。
だから、そう思わざるを得ないじゃないか。
「櫻井から女の話聞くときが来るとはな…」
「ははっ、興味なかったろ?」
「あぁ、まったくな」
笑いながらそんな会話をしてるけど。
内心、穏やかじゃない。
「翔もあんまり聞かないよな」
モテるくせに、と意味深に笑う櫻井から。
不自然にならないように目を逸らした。
「……言えるかよ」
俯いたままかすかに放った俺の言葉はきっと、櫻井には届いていないだろう。
本当は昨日、おまえに相談しに行ったんだよ。
フッと自嘲の笑みを漏らしながら、肩にカバンをかけた。
「じゃあ、行くわ」
「おう、じゃあな」
櫻井と別れて部活へ向うために教室を出て行く。
すれ違う友だちや、女子生徒と軽くあいさつを交わしながら。
いつものように笑顔を貼り付けて。
教室から少し離れたところで、フッと息を吐き出して歩みを止めた。

