「おはよう、ゆず」


校門をまであと少しというところで。

後ろから聞こえてきた声にニヤニヤしていた口許を慌てて元に戻した。


振り返れば、朝から眩しいくらいの笑顔であたしに手を振る速水くんの姿。

朝日を浴びてキラキラして見えて、思わず目を細めてしまう。

それはまるで“王子様”。


「お、おはよう……」


それに比べて、寝不足で不細工なあたし。

そんな顔を見られたくなくて、少し俯き加減であいさつを返した。

可愛くない態度。

わかってるけど、恥ずかしさと同時に居心地の悪さも感じて余計に顔を上げられかった。


周りの視線、気にならないわけがない。


「元気ないけど、体調悪い?」


あたしのそんな気持ちを知らない速水くんは、心配そうな顔であたしを覗き込まれると。

フワリと彼の匂いがした。


「ううん、平気」


小さく首を振って大丈夫だと伝えても。

まだ、顔を上げられなかった。


「ゆず?」


顔を上げないあたしを不審に思ったのか、さらに覗き込もうとしたとき。


「ずいぶんと仲良くなったんだな」


よく知った声が聞こえたことで、ガチガチに固まっていた身体から。

少しだけ力が抜けたのがわかった。