「速水くんにアシストしてもらうなんて贅沢」
「…翔」
「えっ…?」
「速水くん、じゃなくて翔でいいよ」
楽しそうに話していた彼女が、俺の言葉で瞳を大きく見開いた。
普段でも大きな瞳がいっそう大きくなって。
その瞳の中に、笑ってる俺の姿が映りこむ。
「櫻井とも仲がいいし、またここにも来たいし、だから“翔”で」
我ながら、無理やりすぎる理由をつけて。
ただ、彼女に名前を呼んで欲しいだけなのに、そんなこと素直に言えるわけがない。
櫻井のことも、あの優男のことも、名前で呼んでることが羨ましいなんて。
恥ずかしくて言えるわけがない。
「えっ…で、でも…」
「バスケ仲間、俺も入れてよ」
「う、うん……」
彼女なら、きっと嫌だと言わない。
そう思ったから、わざと“バスケ仲間”って言ったんだ。
俺が櫻井と普段から仲がいいことを利用して。
「俺も、名前で呼んでいい?」
「えっ…、う、うん…別に良いけど…」
俺が勝手に話を進めていくから。
彼女はどこか困惑したままで。
そんな彼女を見るのもまた新鮮で、フッと思わず笑みが零れてしまう。
「ゆず」
初めて本人を前にして呼んだ名前。
すごくドキドキしていたのに、その響きはなんだか心地良い。
「これからよろしく」
「…こちらこそ、よろしくお願いします」
当初の目的とは全然違う展開で。
だけど、ここに来たことで出来た神崎ゆずとの関わり。
恥ずかしそうに。
だけど柔らかく微笑んでくれる彼女を目の前に。
やっぱり神崎ゆずが好きだ、と改めて思った。