「ごめんなさい」
あたしも負けじと頭を下げて。
「秋山くんとはお付き合いできません」
そんなあたしを見て、秋山くんはさらに深く深く頭を下げた。
ゆっくりと顔を上げたあたしの視界には、未だに頭を下げたままの秋山くんが映りこむ。
「……顔、上げて?」
頭を下げたままの秋山くんに、少し戸惑いながら声をかけた。
いくら頭を下げられたって、付き合えないものは付き合えないのだ。
だって、秋山くんはあたしのこと何も知らないでしょ?
友だちではない、ただのクラスメイトだ。
あたしだって教室の中での秋山くんしか知らないし。
今まで、そんな対象として秋山くんのことを見たことがない。
まったく知らないわけではないけれど。
それは秋山くんも同じなわけで。
学校での、教室での“神崎ゆず”を好きだと言われても、それは本当のあたしではないのだから。
なかなか顔を上げてくれない秋山くんの腕にそっと触れて。
もう一度、顔を上げてとお願いすると。
ゆっくりと起き上がった秋山くんの耳が真っ赤なことに気がついた。
そのせいであたしまで恥ずかしくなって。
微かに熱くなる頬を隠すように慌てて顔を逸らす。
だけど、その態度が勘違いさせてしまうなんて思ってもいなかった。
フッと笑った秋山くんの顔が切なそうに歪んで。
「……やっぱりダメか」
傷ついた表情を無理やり隠そうと微笑みながら、弱々しい声が聞こえてくる。

