「ちょっと、垣内!」

明日香の声に
垣内は足を止めた。

垣内の元へ
明日香、そして懍が到着した。



「…お前らは、ソノのこと
どこまで知ってるんだ?」



最初に口を開いたのは意外にも垣内だった。

いつもの高いテンションと違って
声も落ち着きがある低いものだった。

廊下に生徒はたくさんいるはずなのに
三人の間に流れる時間は非常に静かだった。



「…私は、ほとんど何も知らない
だが、昨日帰りに会ってそこで少し様子がおかしかったから話しを聞いたんだ。」



垣内の問いに対して
さきに答えたのは懍だった。



「ソノに家族の話をしたらまずアイツは
家族や父母の言葉を知らないと言わんばかりの口調で聞き返してきたから…
っとまぁ私はこんなもんだ。」






なぜか
懍はどや顔をして腕を組んでみせた。

垣内もさすがに二人の方へ振り返って
しかし目を合わせはしなかった。

明日香は振り向いた垣内の見えない表情を
探るように首を傾げたが諦めて一呼吸した。






「私は…

昨日、家に帰ってから少しでも何か方法がないか
自分の部屋で調べてたら行き詰まって
一回リビングに行って休憩しようとしたんだ。

そのときちょうどいた母に
ソノの話をふってみたんだ、母の記憶が何か役に立つかもしれないって思って…」





明日香は一度言葉をきった。

どうやら
昨日の出来事をしっかりと思い出そうと
しているらしい。




懍は堂々としていた腕組みを逆に組み直し
垣内は振り向いたまま1ミリも動かなかった。