「なんか、最近よく笑うようになったな。
やっぱ好きなやつできたからか?」
からかうようなでもどこか
大人びた顔して言ってくる。
"好きなやつ"と聞いて頭に浮かぶのは
もちろん一人しかいない。
だが
思い出した彼女の顔はどれも曇っていた。
最近、
ソノ自身のせいで彼女に不安な顔や心配そうな顔ばかりさせてしまっている。
最初のころに見ていた
あのやわらかい笑顔が思い出せないくらいに…。
「…垣内」
ソノは声を出したが、
その次の言葉を出すことはなかった。
垣内はいくらでも
待つつもりだったが時間が許してくれなかった。
「おい、お前らもう帰れ」
暗くなった教室でよく自分たちの存在に
気づいたなと感心しながら
二人はかばんを持って教室を出た。
明日香たちも話を
しているころだろうか。
すっかり暗くなった
くつ箱付近を先生が懐中電灯で照らしてくれた。
ソノは
垣内が先生に怒られながら楽しそうにしている姿を
後ろから黙って見ていた。
文化祭も終わり、
もうすぐにそこには夏が迫っていた。
「よし、帰るかっ」
「気を付けて帰れよー」
先生の忠告に
垣内は大きな声で返事をし、ソノは黙って頭を下げた。
「…なぁ垣内
俺、好きなのかなぁ…?」
本当に小さな声だった。
呟き程度にしか聞こえない。
絶対、聞こえていないだろうと思っていた。
なのに垣内は
ちゃんと聞いていたように言葉を返した。
思えば、
まるで垣内はソノが言うセリフを前々から知っていたかのように話すことがある。
ソノの思考をよく理解しているから
という理由だけなのか、最近どうも引っ掛かる…。
「その、それは自分で答えを見つけないとなっ!」
周りは暗いはずなのに
垣内の笑顔だけは明るかった。
だけど、
なぜか垣内の笑顔の背景は暗闇が似合うなと
思ったソノであった____。


