「話してたとき、
気づいたら別の場所にいてもう誰もいなかったんだ。

俺は確かに階段で会って話したことは覚えてるが
そこから先が曖昧だ。
俺の記憶以降も話していたのかわからない。」




ソノは決して
"ジョーダン"を言えるタイプではないし
これから先も言うことはないだろう。

いつだって
口に出したことは全て真実なのだ。

真実といえば聞こえはいいが
彼の言葉は純粋過ぎて時にその純粋さが残酷だ。






「…えっますます
わからなくなってきた。

ごめん、
もう一回最初から言って…!」






セリフは慌てたような落ち着きのないものだが
明日香本人はわかっていたかのような
冷静な態度だった。

"へー"とか"あっそー"で終わりそうな
様子に見えるので言葉が浮いて聞こえる。

そう思うのはソノだけなのだろうか。






「もしかしてそのの家族の話でもしてたの…」






途中から明日香の話が途切れた。

だが、
明日香の口は変わらず動いている。

ソノは不思議に思った。



自分の右耳に触れてみる。

トントンっと叩くと
当たり前だが叩いた音が耳に響いた。







「おーい、そのっ明日香っ!
なにやってんだよ、学校閉まるぞ」








教室のドアを勢いよく開けた垣内が
大声で叫んだ。

はいはいとめんどくさそうに言った明日香の声も
聞こえた。




次は両耳に触れてみた。




(…?)





…何もわからなかった―――――。