「向こうから聞いてないのか?」
ソノが言う向こうとはたぶん美結のことだろう。
確かに
明日香なら美結から聞いていてもおかしくない。
むしろ
聞いているものだと思っていた。
「あーうん、
ちょっと忙しそうだったしね…」
困ったように笑って誤魔化したが
そんなのウソだ。
まるっきりウソだとは言わないが、
聞こうと思えば聞けたはずだ。
ソノもなんとなく
明日香の気持ちがわかった。
「…特に何もなかったと俺は思うんだ…
だから、俺からはなにも言えない。
いや、わからないんだ。」
これまた予想外の言葉だった。
当の本人が
何もわかっていないのだから。
明らかに美結のおかしな行動は
ソノが原因にあるはずだ。
なのに、ソノは
なにが原因なのか全く心あたりがない様子だ。
「…ごめん、よくわからなくなってきたわ。
とりあえず、話せるなら昨日の美結との会話
教えてくれる?」
明日香は考えたものの
頭がゴッチャになったので髪をクシャッとした。
ソノは手にはめている白い手袋を
じっと見た。
ピタッとした布手袋で
指の長い手だから余計に綺麗に見える。
「…話の内容、途中まではたぶん覚えてる」
白い手を一度ギュッと握りしめ
ゆっくりと開いた。
特に変わった様子もなく
いつもの白い手袋だ。
「…途中までは?ん?たぶん?」
ソノの言葉は余計に明日香の頭を
混乱させるだけだった。


