書店の入り口の扉に体を半分もたれて本を読んでいる拓海の姿が見えた。

「おはようっ。」

自転車のブレーキをかけながら声をかける。

「あ、おはよう。」

拓海は美鈴の方に顔を上げて頭を軽く下げた。

入り口のカギを開けながら美鈴の気持ちは踊っていた。

「聞いたよ。店長から。正式にここで働くこと決まったんだって?」

「うん。」

素っ気ない返事。

それでも構わなかった。

「よかったね。」

思わず美鈴の気持ちがするっと口から滑り出てしまう。

あわてて付け加える。

「だって、アルバイト探してたんでしょ?ここの店長すごくいい人だし、あなたも本好きみたいだし。」

「そうだね。」

拓海の表情から、喜んでいるのかそうでないのかは読み取れなかった。

だけど、「そうだね」って言う言葉は肯定であって否定ではない。

美鈴はそれだけで満足な気持ちになっていた。

一通り開店準備が整う。

時計を見ると、まだ開店まで時間があった。

レジの前に座っている美鈴の横に拓海もゆっくりと腰を降ろす。

そして、持ってきた小難しそうな本を開いて読み始めた。

「ねー、何読んでるの?」

美鈴は拓海の本をのぞき込んだ。

瞬時に拓海は本を閉じる。

そして、美鈴に顔を向けた。

やけに近い拓海の顔に、美鈴は思わず目を拓海の閉じた本に落とす。

「教養を高めるための本だよ。」

また上から目線な言い方!

と言いたいのをぐっと堪える。

「教養って、どんな?」

「将来自分にとって必要な内容だよ。」

「将来って、あなたは将来何かになりたいってものがあるの?」

「弁護士。」

「弁護士-!!」

思わす大きな声で叫んだ。