翌日の夕方、店を閉めた丁度その時、美鈴の携帯が鳴った。

想像していた通り、薫からだった。

「お疲れさま。お店はそろそろ終わった頃かなと思って。」

「講義のノート、私の分もとってくれてるんだよね。ありがと。」

「ううん。そんなの全然大丈夫よ。それよりも美鈴の店長代理の方が大変だわ。」

「そうだね。でも、とりあえず二日は無事に終わった。」

「拓海も役に立ってる?」

薫の口から拓海の話を聞くのが、なぜかつらかった。

「結構役に立ってるよ。力仕事は全部やってくれてるし。」

「そう。」

薫はため息混じりに言った。

「拓海はもう帰った?」

「うん。いつも店を閉める前に帰ってもらってる。そんな遅い時間じゃないし。」

「そっか。」

「うん。」

「美鈴はこれから晩御飯?どうするの?」

「何も考えてないけど、コンビニでお弁当買って帰ろうかなと思ってる。」

「よかったら、一緒に晩御飯食べない?近くのファミレスででも。」

「わざわざこっちまで出てきてもらうの悪いからいいよ。」

なんとなく、薫とゆっくり話をする状況を作りたくなかった。

「実は、もう駅前にいるの。」

「えー!そうなの?待ち伏せ?」

「そう、待ち伏せ。ごめん。迷惑だった?」

「そんなことないけど。」

ちょっとだけそんなことあった。

「駅前のファミレスに行かない?美鈴も疲れてるだろうし、明日の朝も早いだろうから短時間で食べちゃおう。」

「そうだね。せっかく来てくれてるのに断るのはあんまりだよね。」

「なに?その言い方。まるで断りたかったみたいじゃない。」

電話の向こうで薫が楽しそうに笑っていた。