美鈴には奏汰に彼女がいたなんて驚きだった。

仕事一筋、剣道一筋の硬派な奏汰の隣に歩く女性の姿なんて想像できなかったから。

まさか、私に強がってついた嘘だったりして。

美鈴は奏汰の後姿を見ながら、少し笑った。

「おつかれさん、美鈴ちゃん。」

美鈴が立ち上がった時に声をかけてきたのは、奏汰と同僚の鈴木道夫だった。

「あ、お疲れさまです。」

ペコリと頭を下げる。

道夫も恰幅よく、剣道の腕前は相当なものだった。

奏汰よりも２つ下でいつもつるんでいる飲み仲間らしい。

「ね、ね、鈴木さん！」

道場を後にしようとした道夫を呼び止める。

「田村さんて、最近まで彼女いたって本当？」

「は？！」

道夫は面食らったような顔をした。

「何、突然。」

「だって、さっき田村さんが最近まで付き合ってた彼女がいたとか言ってたから。信じられなくって。」

道夫はおかしそうに笑った。

「信じられないって、それすごく失礼だよな。」

「道夫さんは信じられます？あんな硬派な人が女性と腕組んで歩いてる姿。」

「腕組むかどうかはともかく、奏汰さん結構モテんだぜ。」

「うそっ。」

「男っぽいし、背も高いし、仕事もよくできるしな。」

「ふぅん。それは意外だわ。モテるかもしれないけど、あんな無骨な感じじゃ付き合っても楽しくなさそうね。」

「ほんと、美鈴ちゃんは言うよなぁ。」

「言うよ。だって、本当のことだもん。」

「美鈴ちゃんはあまり知らないかもしれないけど、奏汰さんはすげー優しいんだぞ。」