出発の日、薫が見送りに来てくれた。

最後まで心配そうな顔をしている。

「本当に一人で大丈夫?変な人に付いて行っちゃダメだよ。」

「わかってるって。そんな子供じゃないもん。」

「どっこがー。お子ちゃまじゃない。」

二人で笑った。

笑うだけで緊張がほどけていく。

「行ってきます。」

「楽しんできてね。」

美鈴は頷くと搭乗口へ向かった。

ウィーンで一泊して、ザルツブルグへ移動した。

オーストリアの人たちは日本人にとても優しかった。

背の低い美鈴は、まだ幼い子供と間違えられているのか、お年寄りが愛しい目で優しく色々と教えてくれた。

やっぱり思っていた通りの素敵な国だわ!

美鈴は、自分にどんどん勇気がわいてくるのを感じていた。

嫌な思い出は日本に残して、まっさらな自分だけが今ここにある。

憧れのハルシュタットは目の前だった。

電車を乗り継いで、ハルシュタットの駅に着く。

ここからは船で湖を渡ってハルシュタットの町に向かう。

森に覆われた湖が神秘的に輝いていた。

湖の畔に写真でしかみたことがなかった美しい町が近づいてきた。

あの写真がそのまま大きなスクリーンに大写しになってるようだった。

「うわぁ、きれい。」

思わず声が出た。

船には数人のお客が乗っていた。

オーストリアの人もいれば、明らかに観光にきている外国人もいた。

ハルシュタットの宿は、中心街から湖の畔を15分ほど歩いていったところにあった。

緊張の連続で疲れていた美鈴は、とりあえず荷物を置き宿に向かう。